朝日新聞【単眼・複眼】(1999.8.11)、
読売新聞【読書】(1999.10.31)をはじめ(下画像)、
40以上の新聞・雑誌で紹介されました。

読書欄

「英国での差別体験通し警笛」 ―読売新聞・北アイルランド問題研究家―

【書評の内容】

 「差別される日本人」という本書の副題は、ガーデニングブームに
浮かれるイギリス好きな人々にとっては、いささかショッキングかも
しれない。

1990年にイギリスに移住した著者は、ロンドンの金融街で現地雇用
の銀行営業マンとして働く中でさまざまな差別を体験し、「ジャップ」
や「イエロー」という侮べつ語に出会う。

 こうした側面は日本では一般的にあまり問題にされないが、人種
主義、帝国主義、植民地主義の歴史を抜きにしてイギリスを語るこ
とはできない。

 しかし本書の主題は、イギリスにおける人種差別の告発にあるの
ではない。著者は、日本人への差別意識を増幅させているものとし
て、第二次大戦中の日本軍によるイギリス人捕虜への残虐行為を
挙げている。

謝罪・補償問題に対する日本側のあいまいさはイギリス人一般の対
日感情をいっそう悪化させているのだ。

 著者は不当な人種差別に対してはきちんと抗議すべきであるとす
る一方、日本人の歴史認識や国際性の欠如、内向きの姿勢を改め
なければならないと主張する。

 個人の経験によって状況のすべてを語り尽くすことはできないが、
本書での日本および日本人への提言・警笛は、ちまたにあふれるイ
ギリス礼賛型のエッセーとは一線を画し、リアリティーにあふれた説
得力を持つ。

 それは、著者が長年のイギリス生活において、日本人としてのアイ
デンティティーの揺れを感じつつも、日本人への差別、イギリス人元
捕虜の問題、黒人やユダヤ人、中国人、韓国人などの他の在英マイ
ノリティーとの出会いなどを通じて、いや応なく立ち上げられる「日本
人であること」の問題と、真摯(しんし)に向き合っているからに違いな
い。

 「差別される日本人」はもとより、「差別する日本人」という実感でさ
え希薄になりがちな日本において、本書は日本人もそうした構造と決
して無関係ではあり得ないことを気づかせてくれる。

読売新聞【読書】(1999.10.31)